ここでは,TeXで朝鮮語を扱う方法についてまとめます.この文書ではそれぞれの方法について概観するにとどめ,インストールの方法や詳しい使用方法などについては,それぞれ別の文書にまとめることにします. 既にTeX/LaTeXの基本システムがインストールされているものとします.また,中期朝鮮語の文書作成には,Micorosoft社の配布するNew Batang(あるいはNew Gulim)フォントが必要です.これらのフォントの入手など,詳細についてはフォントについてをご覧ください.
なお,TeX/LaTeXについての総合的な情報は,TeX Wikiをご覧ください.また,誤った記述を発見された場合,ご教示いただければ幸いです.
ひと口に「朝鮮語を扱う」といっても,いくつかのパターンが考えられます.まず(1)朝鮮語のみを含む文書を作成する,(2)日本語と朝鮮語が混在した文書を作成する,そして(3)それ以外の言語も混じった文書を作成する,といった具合です.これらのパターン以外にも考えられるでしょうが,ひとまずここではこれら3つのパターンに沿って,それぞれ紹介していくことにします.
まずは朝鮮語を扱うためのパッケージを列挙してみましょう.
これらのうち,1と2は(1)のパターン,3は(2)のパターン,4と5が(3)のパターンにあたります.ただし(3)のパターンは日本語と朝鮮語(さらに中国語)の組版が可能という点では(2)のパターンと似ています.以下,それぞれのパッケージについて簡単に見ていきましょう.
また,パッケージではありませんが,pTeXでハングルを扱う方法が,日韓混在文書の組版 --- ptexenc と otf パッケージを用いた方法で紹介されています.
おそらく韓国では主に用いられているパッケージと思われます.日本語で言えばpTeXのようなものであろうかといえるでしょうが,実際にどれほど普及しているのかは分かりません.朝鮮語をTeXで扱うために,韓国人の手により開発されたパッケージです.朝鮮語文書の作成に特化しています.日本語や中国語など,その他の言語を単体で扱うことはできません.
追加のパッケージを使用したり,Omegaなどを用いることで多言語混在が可能なようです. 詳細についてはHLaTeXのインストールを見ていただければいいのですが,ここでは簡単に長所や短所などを挙げてみます.
なんといっても,朝鮮語の文書を作成するには便利です.章番号などを「第1節」のように漢字にすることもできるし,あるいは「제1절」のようにハングルにすることもできます.英語の場合と同様に,「1.」のようにすることも可能です.
さらにフォントの多様さが挙げられます.基本は3書体(明朝,ゴシック,タイプ)ですが,それに加えて宮書,古書,ペン字のようなものまで用意されています.自分が必要なものを選んで追加することができます.
また,サポートが充実している,という点も強みでしょう.ただし,朝鮮語が分かる場合のみに限られますが.KTUGでは「設置」と「実用」などいくつかの掲示板が設置されており,活発な意見交換,親切な解説がやりとりされています.実際このパッケージを導入して使おう,という人であれば,朝鮮語の読み書きがおそらくできると思われるので,KTUG本家のFAQや掲示板を活用することが可能でしょう.
まず,インストールの手順が煩雑です.ツリー構造を保持したまま圧縮して配布すればいいと思うのですが,いちいち手作業でファイルをコピーしてやる必要があります.
(基本的に)現代朝鮮語のみを対象としており,中期朝鮮語で用いられる古語が組版できません(ただし,追加パッケージにより可能らしい).
日本語によるサポートがないため,「ちょっとだけ使ってみたい」とか「雰囲気だけ見てみたい」という人には不向き.この点はまあ仕方がないでしょうが,これを機会に朝鮮語を勉強するとか.
自動的に助詞を変化してくれるコマンドなどがありますが,うまく動作しないことがあります.この点はバグなのか,あるいはこちらの動作環境に問題があるのか,真相は分かりません.
[2006/04/16 追加] 上記のHLaTeXと同様に,朝鮮語の組版しかできません.しかしこのパッケージを用いると,現代朝鮮語だけでなく,中期朝鮮語などの古語の組版が可能となります.またHLaTeXはLaTeXマクロパッケージであるのに対し,こちらはOmega(Lambda)をタイプセッタとして用いる点が異なります.
主要な特徴としては,
といった点があるようです.詳しい使用法やインストールなどについては,DHHangulのインストール(現在準備中)をご覧ください.
日本語TeX環境で朝鮮語を扱うために開発されたパッケージ.Vectorからダウンロード可能なものはバージョンが1.2.1で,日付けが1994年となっています.作者ご本人にうかがいましたが,現在のところ開発はあまりなさっていないようです.
入力はアルファベットによる転写を用います.すなわち,日本語TeX文書のなかで簡単に用いることができるわけです.普通の日本語TeX文書を作成し,ハングルを用いたい部分で「ハングルモード」を使用し,ハングルの字母と1対1に対応させてあるアルファベット転写を用いて記述します.朝鮮語だけを大量に記述したい場合には,\hangul…\endhangulを用いることもできます.
また,このパッケージが優れているところは,中期朝鮮語などで用いられる古語を組版できる,という点でしょう.ただし,一部に限られているので注意が必要です.
敢えて難点といえば,フォントが挙げられるでしょう.使用するうえで特に問題はありませんが,好みの分かれるところかもしれません.書体は明朝体とゴシック体の二つが用意されています.
とはいえ,現代ハングルは全て問題なく組版可能であり,またアルファベットによる入力を採用することで,ハングルのキーボード配置を覚える必要がありません.使い慣れた日本語環境で日本語と朝鮮語の混在文書を作成するには,非常に向いているのではないでしょうか.
LaTeXでChinese/Japanese/Korean(さらにタイ文字なども)の組版を可能にするパッケージです.これまた使用状況はよく分かりません.これまで紹介した二つのパッケージとは違い,朝鮮語をメインのターゲットにしているわけではありません.むしろドキュメントの整備といった点では立ち後れているようにも思われます.
LaTeX環境において用います.CJKそれぞれの文字エンコーディングに対応しているだけでなく,UTF-8によるエンコーディングもサポートしています.日本語などはSHIFT-JISやEUC-JPにも対応.さらに縦書きも可能なようです.
このパッケージの難点は,文書スタイル自体はLaTeXのものを用いるため,行間がやたら詰まっていたり,朝鮮語の分かち書きなども妙に詰まって見えます.そのあたりをいちいち修正してやる必要があるので,面倒といえば面倒.
よい所は,UTF-8エンコーディングが使えるので,朝鮮語の古語を組版できるということでしょう.また,Emacsで編集するためのLispパッケージが付属しており,多言語が混在していてもあまり意識せずに処理をしてくれます.
[2006/04/16 追加] Hangul-ucsとはdhucsマクロパッケージとフォントに関するファイル(またはパッケージ)を含むプロジェクト全体の名称,あるいはこれらのファイル群の総称です.実際にはdhucsを始めとするさまざまなパッケージを文書のなかで呼び出して用います.作者の一人であるKarnesKimさんによると,現在のところハングルを組版できる,UnicodeベースのLaTeXソリューションとしては唯一のものだということです.KTUG FaqのCJKLaTeXの項目にHLaTeXとCJKパッケージ,Hangul-ucs(DHUcs)の違いがまとめられています.
ハングルの入ったPDFのしおりを作る(pdfLaTeXを用いる)など,Omegaでは不可能な作業を行なうため,LaTeXでUTF-8エンコーディングを扱えるようなパッケージとして開発されました.
同梱のdhucs-trivcjパッケージを用いることで,日本語と中国語の段落を挿入することができます.dvipdfmxで処理する際には,日本語と中国語の部分はCID-keyedフォントが用いられます.
設置や使用方法については,Hangul-ucsのインストール(現在準備中)をご覧ください.
以上,ややかけ足に各パッケージの概要を見てみました.けっきょく,自分が作成しようとしている文書に合わせて,それぞれのパッケージを選択するのが望ましいと言えるでしょう.その際,文書のなかで主に使われる言語は何か,また文書のエンコーディングをどのようにするか,さらにタイプセッタとして何を用いるかといった点が選択の要素となるでしょう.
この覚え書きにおいては,HLaTeXとCJKパッケージ,DHHangulとHangul-ucsについてさらに詳しい文書を用意しています.インストール方法など個別の情報についてはそれらを参照してください.Korean TeXパッケージについても余力があれば準備します.